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登山口




リアル工房の頃の話。深夜二時頃までテスト勉強をしていたのだが、小腹が減ってきた。
持ち帰った仕事を丁度一段落つけたところの母親に車を出してもらい、コンビニに逝った。
その帰り道。私の住んでいるところは田舎なので、普段ならその時間帯には車など殆ど走っていない。
しかし、前方には赤く光るテールライトが。左折するようだ。私達の行く方向と同じ方向だ。

なんとなく気になってその車の行方を目で追っていると、その車は徐々にスピードをおとしていく。
その辺りから私の自宅までは一本道。
私たちが自宅に到着し、停車した時には、その車は私達の乗る車のほんの数メートル先にいた。
「なんやこのくるま…?」不審がる私と母の目前で、その車も停車。
ガチャリとドアが開き、ドライバーが降りてきた。そのまま私達の方へ歩いてくる。
玄関灯の明かりに照らし出されたのは、普通のサラリーマン。「すいませんけど…」声をかけてきた。

母「なんでしょう?」(警戒心まるだし)
リーマン「あの…○○○○山の登山口って、どこですかね?」
はぁ?と思わず聞き返しそうになってしまった。その山とは県内でも有数の高い山で、
春先から夏、秋の終わり頃にかけて、県内のプチ登山家は勿論、県外からの観光客も多く訪れる。
しかし今は真冬、しかも夜中の二時過ぎである。その場で口にこそ出さなかったものの、
私と母の意見が「こいつなんかやばいわ」という所で一致したのは間違いない。
とりあえず気持ち悪い、早く立ち去ってくれという思いで、早口で道を教えると、
その男性は礼儀正しく「ありがとうございました」と一礼してから車に乗り込み、去っていった。
登山口の方向へ消え去る赤いテールランプを見ながら、母が一言。
「タラオ(仮名)…、あんた車のナンバー控えたか?」

翌日から一週間ほど、新聞やテレビのローカルニュースに注意を払っていたのだが、
【○○○○山で遺体発見】などというニュースが流れることもなかった。
「あの人なんやったんやろなあ」私と母の間でそんな会話が交わされることも、少なくなっていった。
ただ、電話機の横にかけてあった『大事なことメモアンド伝言板』(ようするによくあるホワイトボード)
の片隅に書きなぐられたその車のナンバーが、いつまでも残っていたのを憶えている。
それもいつしか薄れて消えてしまったが。


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2018-09-11 18:20 : 怖い話・都市伝説 : コメント : 0 :
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