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横殴りの風




鎖場に垂らされた鎖が、ちりちりと音を立てて揺れ、
引きずられるような強風だった。
夕暮れまで、もう少し。
先を急ぎたかったが、横殴りの風が激し過ぎる。
膝をついて態勢を低くするうち、四つん這いになり、
何度も、身体が浮き上がりそうになった。

斜面を小石が駆け上がってくる。
はっきり見えるわけではない。
音でそれを知り、速度を想像した。
カン、カンカンと音が右から左へ駆け抜けた。

やがて風下側の斜面へ移ることができた。
風は弱く感じるようになったが、足元の斜面は、
それまでより急になった。

ちらりと何かが視界の端で揺れた。
見上げると、すぐ目の前に稜線がある。
その稜線を越え、細い紐が揺れている。
風の吹く形そのままに、激しく宙に舞っている。

手が届きそうだ。
ある山岳小説では、こんな紐を掴んだ主人公が、
命拾いをする。

これといった考えもなく、その紐を掴んでしまった。
まずいと思ったが、どうにもならない。
手の中の紐を引いてみたが、紐は引けない。
何かに固定されているかのようだ。

ぐっと力が入った次の瞬間、紐が張りを失った。
稜線を越え、斜面のこちらへ紐が来た。
紐はそのまま風に乗り、跳ねるように飛んだ。
手が、紐を放そうとしなかった。
先端が見えないほど、長い紐だった。
それが風の中、まっすぐ風下へと伸びる。
紐と一緒に飛ばされそうだと思ったとき、
手のすぐ先で紐が切れた。

手から5センチばかり顔を覗かせている紐の切断面は、
刃物で切ったように平らだ。

手の力がゆるみ、手の中に残った紐は飛び去った。
風は、いつまでもやまない。


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2018-10-29 18:35 : 怖い話・都市伝説 : コメント : 0 :
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